邦題『100才の少年と12通の手紙』と
原題”Oscar et la dame rose”
2009年のフランス・ベルギー・カナダ合作映画です。
原題は「オスカーとローズ(色)の女性」(英語にすれば “Oscar and the Lady rose”)に対し、邦題は「100才の少年と12通の手紙」です。
原題と邦題ではだいぶイメージが違いますよね。
邦題はやや、ネタバレぎみです(笑)
同時に、親切です。
100才の少年て? と疑問と好奇心をかきたてますね。
それから「手紙」。
誰から?という好奇心(笑)
後は、100とか12とかの数字も暗示的。
仮に100才と100通だったら、毎年一通か、クリスマスかな?なんて想像が膨らみます。
12通となると、???となって好奇心全開(?)です。
具体的なイメージを限定しながら好奇心を刺激しまくっています。
この結果、誘われて劇場に足を運んだ観客の満足度は高くなるのではないでしょうか。
なぜならこの題名で劇場を訪れる観客は、こんな条件を満たしているからです。
1 初めから「少年」物に関心のある観客
2 少年が100才って、病気?、超人? どちらにしても普通じゃないという期待と覚悟
3 12通の手紙、100才にしては少ないので、意味深な手紙だろうという期待と覚悟
私は、観終わったあとも、なぜ12なのかはわかりませんでした。
私が作者なら、9通でも10通でもよかったかな、なんて。
でも、これは愚問ですね。
リアルな事柄にすべて意味を持たせたら謎解きになってリアル感は薄れます。
それはともかく、期待と疑問で観客の好みを選り分けているので、失望する率はぐんと下がると思われます。
原題は作者がつけたもの、邦題は日本の配給元がつけたもの。
当然、目的が違います。
配給元は観客動員が目的ですから、より誘惑的な、失望率の低い題をつけるでしょう。
ということで、ここはあまり深入りしないで、映画の中身に目を向けましょう。
物語
オスカーは10歳の少年で白血病、手術に失敗し、生きていられるのは二週間ほど。
子供病院の小学校で、イタズラをしても、みんな病気のことを知っているので叱られません。
先生も両親も、誰もホントのことをオスカーに伝える勇気もなく、腫れ物に触るように扱われます。
オスカーはそんな大人たちに不信感を持ち、誰にも本心を話しません。
両親のことも、「ぼくを見ようとはしない。見ているのは僕の病気だけだ。」と言って、嫌っています。
オスカーが心を許して本心を話せるのは、口の悪いピザ屋のおばさん、ピンクの服を着たローズだけ。
余命12日のオスカーにローズは1日を10年として生きること、毎日神様に手紙を書くことを提案します。
オスカーは想像力とローズの協力で、凝縮した100年分の人生を全うします。
私たちが長い時間をかけて味わい学ぶことを、12日間で、閉じ込められた病院生活の中で、しっかり体験しながら、他人の痛みも分かるようになって両親とも和解します。
最後には、「毎日新しい朝が始まる」という神様の奇蹟にも気づきます。
オスカーの生と死は、物や肉体しか信じようとしなかったローズにも「愛」の実感を残します。
無力感に打ちひしがれている主治医にも現実を受け入れ自分を許す勇気を与えます。
そしてこの愛の実感や勇気は、観客へのプレゼントでもありまね。
テーマは?
この作品は、最初、小説で発表され、ヨーロッパ中心にベストセラーになっています。
作者・エリック・エマニエル・シュミットが、シナリオを書き、自ら監督して出来上がった映画です。
作者自身は、来日の折り、言葉少なく、次のように言っています。
「子供は隠し事をする大人は信用しないと思う」
テーマを知りたいと思っていると、「え? それだけ?」と言いたくなるかもしれませんね。
けれど、作家の仕事はこんなことから始まるのではないでしょうか?
「子供にだって大人は本気で正直に向き合うべきだ」ということを伝えたかったら、それが伝わる物語を組み立てればいいのです。
作品が一つの世界として完成したものであれば、その意味や力は、受け取る人によって様々になります。
人生や、日々の出来事から私たちが受け取るものが千差万別なのと全く同じです。
このように多様な解釈を可能にするのが優れた作品の魅力でしょう。
鑑賞者に、もう一つ別の人生体験をプレゼントしてくれるものです。
『100歳の少年と12通の手紙』から私が受け取ったメッセージ
「人生の意義は、その長さではなく密度にある」
なんて、格好つけてみましたが、何歳まで生きたかより、どう生きたかを問われたときに、後悔しない生き方をしたいなと思った次第です。
そしてもう一つは、「幸せな人生とは、受け身で求めるものではなくて、置かれた状況の中で挑戦を楽しむこと」
他人を見て羨ましがったり、優越感や劣等感を持つことは人生の無駄、自分を試すせっかくのチャンスを使いきりたいと思います。
最近、可愛い子役にハマり気味の私です。
ピュアな瞳で全身全霊で人生に挑戦する人間のけなげさがストレートに響きます。
諦めたりすねたりしている大人たちも、心の底はこんな姿なんだなと思うと、寛大な気持ちになれます。
オスカーを演じたのは、アミール・ベン・アブデルムーメンくんです。
今はもう、20代でしょうね。
検索してみたところ、ベルギー在住でツイッターに写真などを投稿している同姓同名の人が居ました。
これ以上の追求は止め止め!
百年分生きたあのオスカーは、とっくに天国。
いえ、ずっと10歳のまま、生きています(^_-)-☆